デジタルマガジン

2012年01月20日 8:00

iPhoneを作っているせいで“自殺者の多い企業”というレッテルを貼られたフォックスコン

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 先日の記事で「フォックスコン(Foxconn)は従業員の自殺も連発している要注意の企業で、ジャーナリズムが看過していいわけがない」とのコメントを見かけ、「違うよ。全然違うよ」とマーク・パンサーばりに否定したくなったので“フォックスコンの自殺率は低い”ことを調べた結果を記事として公開します。

 メディアにこぞって問題だと取り上げられている中国広東省深センにあるフォックスコンの巨大工場ですが、ここでは45万人の従業員が働いています(中国国内では54万人、フォックスコン全体では80万人)。

 “45万人”と書かれてもピンと来ないでしょうが、東京ドーム(45,600人収容)に換算するとドームが約10個、ずらーっと並んでいる計算になります。日本の都市では兵庫県尼崎市、長崎県長崎市、東京都葛飾区などの人口とほぼ同じです。

中国国内の10万人あたり自殺者数22.23人に対してフォックスコンは3.3人

 問題の「フォックスコンの自殺者数は多いか? 少ないか?」ですが、まずは中国国内の自殺者率を見てみましょう。数字はAFPBB Newsの記事を参考にします。

China’s suicide rate is 22.23 people out of every 100,000, the Centre for Disease Control and Prevention said on its website.

The suicide rate in rural areas is three times higher than in urban centres and accounts for 75 percent of China’s suicide total, it said.

AFP: China’s suicide rate ‘among highest in world’

 記事では中国国内の自殺者数は10万人あたり22.23人であると書かれています。ただし、自殺者の75%は農村部に集中しているとあるので、公平を期すために自殺者数の25%を深セン(深セン市は香港の隣にある経済特区)での自殺者数とします。

  • 22.23人(中国の10万人あたり自殺者数)×2(都市部と農村部を合計)×0.25(都市部の自殺率)=11.12人(深セン市の10万人あたり自殺者数)

 次にフォックスコンの自殺者数ですが、英語版Wikipediaに自殺した人の名前やその結果などがまとめられているのでそちらを参考にします。

 Foxconn suicides – Wikipedia, the free encyclopedia

 Wikipediaの情報によると、2010年に15人が自殺(未遂含む)、2011年に4人が自殺(同)となっています。この数字をもとにフォックスコン深セン工場の10万人あたり自殺者数を求めます。

  • 15人(2010年の自殺者数)÷4.5(深セン工場の従業員比率)=3.3人(深セン工場の10万人あたり自殺者数)
  • 4人(2011年の自殺者数)÷4.5(深セン工場の従業員比率)=0.89人(深セン工場の10万人あたり自殺者数)
  • 19人(合計自殺者数)÷4.5(深セン工場の従業員比率)=4.2人(深セン工場の10万人あたり自殺者数)

 2010年、2011年、そしてそれらの合計のどれを見ても、フォックスコン深セン工場の自殺者率は中国国内の自殺者率より低いと言えます。

iPhone製造工場であるフォックスコンは読者の注目の的

 フォックスコンが問題だとしてメディアに取り上げられる理由のひとつに、iPhoneやiPadを作っていることが挙げられます。WIREDでも書かれていますが、インターネットユーザーはAppleネタが大好きです。

 われわれのサイトで最も検索される用語は常に「iPhone」だし、Apple社に関する記事は技術系の記事のなかで最も読まれるものになることが多い。おそらくは、他の技術系サイトやライターでも同様の傾向が見られるのではないかと思う。

 つまり結論としては、読者が読みたがるから、われわれはApple社の記事を書くのだ。

 Apple社のメディア戦略、5つのポイント ? WIRED.jp Archives

 読者の注目を集めるため、ネットニュースはセンセーショナルになりがちです。「iPhoneを作っている工場で自殺が頻発」と取り上げれば「なんてひどい!」とネットユーザーの間で話題になり、PVも増えます。

 しかし、その自殺者数はさきほどのデータ通り平均より低い数値、つまりは当たり前の数字です。

 当たり前のことなのになぜ「ひどい」と感じてしまうのか? それは、多くの人がフォックスコンの規模を想像できないからです。

 フォックスコン深セン工場は、3キロメートル四方の敷地内に15の工場、いくつもの労働者寮、プール、消防署、食料品店、銀行、レストラン、本屋、そして病院などがあります。フォックスコンは、それ自体がひとつの街なのです。

 けれども、メディアはこの街を“フォックスコンの深セン工場”とまるでたったひとつの工場しかないかのように取り上げます。それを読んだ読者も、自分の中で知っているレベルの巨大工場を想像します。

 しかし、その実態は街なのです。

 日本の長崎県長崎市ではフォックスコン深セン工場とほぼ同じ44万人が暮らしています。この都市の平成22年の自殺者数は118人です。同年のフォックスコンは15人です。

 はたしてフォックスコンは自殺が多い問題企業なのでしょうか? ボクはそうは思えません。

 フォックスコンの自殺問題はメディアのミスリードに踊らされているだけなのです。

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