デジタルマガジン

2010年04月13日 17:00

『マジコン』の被害総額が数兆円という嘘

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photo:gin.nama4

 ニンテンドーDSの海賊版ゲームソフトが動作する機械、『マジコン』。今さら説明の必要もないほどの有名なガジェットだが、この『マジコン』の被害総額が数兆円規模になっているという話が出てきている。ハッキリ言おう、それは嘘だ。

 この数兆円という被害額は朝日新聞が報じたもので、2009年6月に任天堂が海賊版ゲームのダウンロードができる10サイトのダウンロード件数を調べたところ、約2億3,753万件のダウンロードが確認され、この件数に平均単価をかけると被害額が1兆円超えとなり、各国の調査も含めると年間で最低数兆円規模になるというのだ。

 そんな計算、通るわけないだろう。

 仮に『マジコン』が絶滅したとしても主張している“最低数兆円”はゲーム業界には入ってこない。多めに見積もったとしても、2割か3割がいいところだろう。同様の被害に合っている『着うた』では“違法サイトによってCD購入が減った人の割合”は20%前後との調査結果が出ている。彼らは“タダ”だからダウンロードしているのであり、それが“有料”になれば買わないだけだ。

 こうした被害件数×平均単価の話をすると“物がある窃盗(万引き)”と比較する人がいるが、それは間違いだ。なぜなら、ダウンロードでは誰も物質的な損をしていないからだ。実際の商品を盗まれるともうそれを他の人に売ることはできないが、電子データを複製されても物質的な被害はゼロ。あるのは“ダウンロードされなければ売れたかもしれない”という期待の数字であり、それが実際にどれだけ売れるのかは誰にも分からない。

 事実、こうした“ダウンロード件数×平均単価”の被害額の計算は裁判でも否定されている。

 その裁判とは全米レコード協会(RIAA)が17,281曲を違法ダウンロードした人物に対して“ダウンロード件数×平均単価”で損害賠償を求めたもので、担当のジェームズ・ジョーンズ判事は「仮にダウンロードする機会がなかったとしても被告が1万曲以上の楽曲を正規の手段で購入していたとは限らない。1万曲以上の楽曲をダウンロードしていたからといって、それがそのまま経済的損失に繋がったとする原告の主張は論理の飛躍」として訴えを退けている。

 なのに、ここ日本では“最低数兆円”という立派な数字だけが一人歩きしている。まるで、ゲーム業界の不況は『マジコン』のせいだと言わんばかりだ。

半年で総ソフト平均単価が1,000円も上昇

 また、この被害総額にはさらにおかしなところがある。平均単価が異常なほど跳ね上がっているのだ。

 こちらは産経新聞が報じたもので、2008年12月にコンピュータソフトウエア著作権協会が海賊版ゲームのダウンロードができる7サイトのダウンロード件数を調べたところ、約1億1,200万件のダウンロードが確認され、この件数に平均単価をかけると被害額が3,000億円超えになったという。

 前述の朝日新聞の報道では2億3,700万件のダウンロードに対して被害額は1兆円超えだったが、産経新聞の報道ではダウンロード件数が半分であるにも関わらず3,000億円超えとなっている。計算すると平均単価は前者が約4,210円であるのに対し、後者は3,200円(産経新聞記事内の数字)だ。

 たった半年で平均単価が1,000円も上昇するだろうか? 答えはノーだ。2004年12月から発売された全ソフトを含む総平均単価が2009年からのたった半年で1,000円も上昇するわけがない。

 たしかに、『マジコン』による被害は存在する。それは許されないことだ。だからと言って、大げさに嘘の数字を主張し続けていては正しい対応を見誤ってしまう。

 もしも『マジコン』の被害がなければどの程度売れたのか? 『マジコン』への対応にコストをいくらかけ、それでどれほど売上の減少を防げたのか? そういった数字を出していくことが大切だ。誤った数字をもとに動いては、間違った対応をしていることになるかもしれない。

業界の再編が必要

 そして、ゲーム業界自体の一層の努力も必要だ。私には、どうも“マジコンがなくなればまた昔のように売れるようになる。だからそれまでなんとかして生き延びよう”という空気が業界に流れているように感じる。それは間違っている。携帯電話、パソコン、そしてiPhoneアプリ、昔に比べてライバルは増えてきている。ただ面白いゲームを出せば売れるという時代ではない。今のようなかたちではなく、業界の仕組みそのものを変える必要があるだろう。

 貧困化が叫ばれる時代、任天堂はWiiウェアやDSiウェアを、SCEはPlayStationNetworkを、そしてMicrosoftはXbox Liveで低価格商品を出してきているが、それでは足りない。結局、ユーザーは遊ぶために大きなお金を使うことになる。

 お金がないからタダでゲームを遊ぶ人たちがいる。生き残りたいゲーム会社がある。この2つを繋げる関係が、『マジコン』の撲滅だとはどうしても思えない。メーカーの枠を超えた革新が今、必要なのではないだろうか

※4/14 10時03分修正。伝えたいことをうまく表現できていなかったため大幅にリライトしました。

※この記事は『マジコン』を肯定するものではありません。

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